移行プロセス・7つの方式・運用設計まで、判断に必要なポイントを体系的に整理
「AWS移行を検討しているが、どこから進めるべきかわからない」といった悩みを抱える企業は少なくありません。
AWSにはコスト最適化やスケーラビリティ向上といったメリットがある一方で、移行方式の選定や既存システムの整理、移行後の運用設計など、検討段階で判断に迷うポイントも多くあります。全体像を把握しないまま進めてしまうと、移行方針が定まらず検討が停滞し、結果として想定外のコスト増や運用負荷の増大を招きかねません。
本記事では、AWS移行の基本から代表的な移行方式、よくある課題と対策までを整理し、失敗しないための進め方を解説します。
この記事のポイント
- AWS移行: 「評価」「準備」「移行・最適化」の3つのステップを、段階を踏んで計画的に進めることが大切
- 自社に最適な移行方式の選び方:スピードやコスト削減など、目的に合わせて7つの方式を選択し使い分ける
- 移行でよくある失敗への対策: 事前に利用状況の精査やシステムのつながりを整理することで、想定外のコストやトラブルを未然に防ぐことができる

目次
1. AWS移行のメリットと基本の進め方
AWS移行とは、オンプレミス環境や他社クラウド環境で稼働しているデータ、アプリケーション、ITリソースをAWSへ移し替える取り組みです。単なるインフラの置き換えではなく、システム構成や運用方法を見直し、コスト最適化や拡張性の向上、運用負荷の軽減を実現することが目的となります。
従来のオンプレミス環境では、サーバー調達や保守、増設対応に多大な時間とコストを要しました。一方、AWSでは必要な分だけリソースを利用できるため、需要に応じた柔軟な拡張・縮小が可能です。また、バックアップや災害対策、セキュリティ機能も活用しやすく、適切に設計することで、システムの可用性や信頼性の向上にもつながります。
AWS移行の進め方
AWS移行は、以下の3つのステップで進めるのが一般的です。

1.Assess(評価)
移行の目的を整理し、ビジネス価値やTCO(総保有コスト)を試算します。同時に、既存システムの構成や利用状況を把握し、移行対象や優先順位、移行方式の方向性を検討することが重要です。
AWS Application Discovery ServiceやMigration Evaluatorなどのツールを活用することで、オンプレミス環境の依存関係やコスト見通しを整理しやすくなります。
2.Mobilize(移行準備)
Assessで策定した方針に基づき、移行計画を具体化します。システム資産の棚卸しや移行プロジェクトの計画立案、パイロット移行、ランディングゾーンの設計、セキュリティ・コンプライアンス対応などを進めるフェーズです。
3.Migrate & Modernize(移行・最適化)
システムごとに適した移行方式を選択し、移行を実行します。移行方式に応じて、AWS Application Migration ServiceやAWS DataSyncといった移行サービスを活用可能です。移行後はクラウドの特性を活かした構成へ改善していきます。
AWS移行を成功させるには、評価・準備・移行・最適化までを一連のプロセスとして捉え、クラウドの特性を踏まえて計画的に進めることが重要です。
2. よくあるAWS移行の悩みとつまずきポイント
AWS移行には多くのメリットがある一方で、実際の検討・実行フェーズではさまざまな課題に直面します。ここでは、AWS移行で特につまずきやすいポイントを整理します。
既存システムの依存関係や構成が把握しきれない
既存システムには複数のアプリケーションやデータベースが存在し、それらが複雑に相互依存しているケースが多々あります。特にオンプレミス環境で長年運用されてきたシステムでは、構成や連携関係が整理されておらず、全体像を把握しきれないことも少なくありません。
その結果、どのシステムから移行すべきか、どのように分割して進めるべきかといった判断に迷うケースが多くあります。
移行方式の判断が難しい
AWS移行には、リホストやリプラットフォーム、リファクタなど複数の移行方式があり、システム特性によって適した方式は異なります。しかし、自社のシステムの現状と移行の目的に照らし合わせ、どの方式が最適かを客観的に判断するのは容易ではありません。
移行スピードを優先すべきか、将来的な最適化を重視すべきかといった観点で、意思決定に悩むケースが多くあります。
移行後の運用やコストを見通せない
AWSは従量課金制であるため、利用状況によって月々のコストが変動します。また、監視や障害対応などの運用業務も継続的に発生します。そのため、移行後にどの程度の運用負荷やコストがかかるのかイメージしづらく、不安を感じるケースも少なくありません。結果として、移行に踏み切るべきか判断できず、検討が進まない要因になることもあります。
3. AWS移行方式の種類と特徴
AWSでは、システムの移行方式を「7R」と呼ばれるフレームワークで整理しています。移行対象の特性や目的に応じて、これらの方式を選択し、使い分けることが重要です。
実際の移行では、これらの方式を単独で適用するのではなく、システムごとに組み合わせて選択するケースが多くあります。
| 移行方式 | 概要 | 特徴 | 活用できるAWSサービス例 |
|---|---|---|---|
| Rehost(リホスト) | 既存のサーバー構成やアプリケーションを変更せず、そのままクラウドへ移行する | ・短期間・低コストで移行しやすい ・クラウド最適化は不十分になりやすい | AWS Application Migration Service、Amazon EC2 |
| Relocate(リロケート) | VMwareなどの仮想環境をそのままクラウドへ移行する | ・既存環境を維持できるため影響が少ない ・クラウドの柔軟性は活かしにくい | VMware Cloud on AWS |
| Replatform(リプラットフォーム) | アプリケーションは大きく変えず、一部をクラウド向けに最適化する | ・運用効率やコストの改善が期待できる ・一定の設計見直しが必要 | Amazon RDS Amazon ECS、AWS Fargate |
| Refactor(リファクタ) | アプリケーションを再設計し、クラウドネイティブな構成に作り替える | ・拡張性・可用性・コスト効率を最大化できる ・開発工数・難易度が高い | AWS Lambda Amazon API Gateway Amazon DynamoDB |
| Repurchase(リパーチェス) | 既存システムをSaaSなどのクラウドサービスに置き換える | ・自社での運用が不要になり負荷を削減できる ・業務フローの変更が必要 | ー |
| Retire(リタイア) | 利用していない、または不要なシステムを廃止する | ・運用コストや管理負担を削減できる ・影響範囲の事前整理が重要 | ー |
| Retain(リテイン) | 技術的・業務的な理由で移行せず、現行環境のまま維持する | ・無理な移行を避けられる ・オンプレとクラウドの併存管理が必要 | ー |
4. 【ユースケース別】AWS移行方式の選び方
移行方式の最適解は「どのような状態を目指すのか」「どのような制約があるのか」によって変わります。ここでは、代表的な5つのユースケースに適した移行方式を解説します。

既存システムを変更せず、短期間でクラウド移行したい場合
データセンターの契約期限やハードウェアの老朽化などにより、システム改修に時間をかけられず、まずはクラウドへ移行することを優先したいケースです。この場合、既存構成を維持したまま移行できるリホストやリロケートが適しています。設計変更を最小限に抑えられるため、移行期間を短縮でき、業務影響も抑えやすい点が特徴です。
アクセス増加や負荷変動に対応し、安定性を高めたい場合
Webサービスや業務システムにおいて、アクセス集中や負荷変動によりパフォーマンスが不安定になるケースです。オンプレミスではリソース増強に時間がかかるため、柔軟なスケーリングが求められます。
この場合、リプラットフォームが有効です。アプリケーションは大きく変更せずに、オートスケーリングやマネージドサービスを活用することで、負荷変動に応じた柔軟なリソース制御が可能になり、安定性を確保できます。
運用負荷やライセンスコストを削減したい場合
システム運用の負担が大きい、あるいはミドルウェアやデータベースのライセンスコストが課題となっているケースです。
この場合もリプラットフォームが適しています。たとえば、データベースをマネージドサービスへ移行すれば、パッチ適用やバックアップなどの運用作業を削減可能です。また、従量課金制のため、利用状況に応じてリソースを調整することで無駄なコストを抑えやすくなります。
開発スピードを高め、ビジネス変化に柔軟に対応したい場合
新機能追加のスピードが遅い、開発・運用の分離ができていないなど、既存アーキテクチャがビジネスの足かせになっているケースです。
この場合はリファクタが適しています。アプリケーションをクラウドネイティブに再設計することで、マイクロサービス化やCI/CDの導入が可能になり、開発の柔軟性とスピードが大きく向上します。
パッケージやSaaSで代替可能な業務システムを利用している場合
自社で個別に開発・運用しているものの、実際には既存のSaaSで代替可能な業務システムを利用しているケースです。この場合はリパーチェスが適しています。SaaSへ移行することで、インフラやアプリケーションの運用が不要となり、継続的な保守負担を大幅に削減可能です。
多くのケースでは、まずリホストでクラウドへ移行し、その後リプラットフォームやリファクタによって段階的に最適化を進めるアプローチが取られます。移行を一度で完結させるのではなく、目的に応じて段階的に改善していくことが現実的な進め方といえるでしょう。
5. AWS移行でよくある失敗と対策
ここでは、AWS移行において陥りやすい失敗例と、具体的な対策を整理します。
想定以上のコストが発生する
AWS移行後に、当初の見積もりよりもコストが膨らんでしまうケースは少なくありません。主な原因として、既存環境の構成をそのまま移行し、AWS環境に適したリソース設計や最適化が行われていないことが挙げられます。また、不要なインスタンスの放置や過剰なスペック設定により、継続的に無駄なコストが発生することもあります。
対策として、移行前に利用状況を精査し、適切なリソース設計を行うことが重要です。加えて、移行後もコストを継続的に可視化し、リソースの見直しや、リザーブドインスタンス(RI)・Savings Plans(SP)の活用による継続利用前提のコスト最適化を行う必要があります。
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移行計画や検証が不十分でトラブルが発生する
移行プロセスの設計が不十分な場合、移行後にシステム不具合や性能低下が発生し、業務に影響を及ぼすおそれがあります。特に、システム間の依存関係やデータ整合性の確認が不十分なまま移行を実施すると、想定外のトラブルを招きかねません。
対策として、事前に構成や依存関係を整理したうえで、段階的な移行計画を策定することが重要です。また、検証環境でのテストや、トラブル発生時のロールバック手順をあらかじめ準備しておくことが求められます。特に影響範囲が大きいシステムでは、PoC(概念実証)やパイロット移行を通じて、事前に性能や運用面の課題を検証しておくことが重要です。
セキュリティ設計の不備による事故が発生する
移行時にセキュリティ設定の検討が不足していると、不正アクセスや情報漏えいといった重大なリスクにつながりかねません。たとえば、アクセス権限の過剰付与や認証情報の管理不備により、意図しない操作が可能になるケースもあります。
対策として、IAMによる権限管理の徹底や多要素認証の導入など、クラウド特有のセキュリティ対策を移行段階から組み込むことが重要です。また、設定状況を継続的に監視し、早期に問題を検知できる体制を整える必要があります。
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6. AWS移行後の運用設計と体制の考え方
AWS移行では、環境を構築して終わりではなく、その後の運用を安定して継続できるかどうかが重要です。ここでは、持続可能な運用体制を築くためのポイントを解説します。
継続的な運用を前提に設計する
AWS移行後は、監視や障害対応、セキュリティ管理、コスト最適化といった運用業務が継続的に発生します。特にAWSでは、Amazon CloudWatchによる監視やログ管理、IAMによる権限管理、AWS Cost ExplorerやAWS Budgetsを活用したコスト管理など、マネージドサービスを前提とした運用設計が不可欠です。
また、メトリクスやログが大量に出力されるため、アラートの閾値や通知内容を適切に設計・精査し、重要な異常のみを検知できる状態を維持する必要があります。各種サービスを活用しながら運用業務の内容を具体的に洗い出し、対応手順や管理ルールをあらかじめ整備しておくことが重要です。
内製と外部活用を組み合わせて設計する
AWS運用では、24時間365日の監視や迅速な障害対応が求められるケースが多く、自社リソースのみで対応することが難しい場合もあります。特に、専門性が求められるセキュリティや障害対応の領域では、対応品質の維持や担当者の負荷増大といった課題に直面しがちです。
そのため、すべてを内製化するのではなく、自社で対応すべき範囲と外部に委託する範囲を整理し、適切に組み合わせて運用体制を設計することが重要です。
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7. AWS移行についてよくある質問
最後に、AWS移行についてよくある質問と回答をまとめました。
Q.PoCでは何を確認するべきですか?
A.本番環境へ移行した際に、問題なく運用できるかを事前に確認することが重要です。具体的には、性能や動作検証に加えて、既存システムとの連携、データ移行の整合性、運用時の負荷やコストの見通しなどを確認します。
PoCで課題を洗い出しておくことで、本番移行時のトラブルを防ぎやすくなるため、設計段階からリスクの高い箇所を重点的に検証することが求められます。
Q.AWS移行はどこまで外部に任せるべきですか?
A.自社のみでの判断やコントロールが難しい工程は、外部へ委託するのが基本です。たとえば、移行方式の選定や設計、移行計画の策定などは専門性が求められるため、外部支援を活用することでリスクを抑えられます。一方で、業務要件の整理や最終的な意思決定は自社で担う必要があります。
まとめ
AWS移行は、全体像を踏まえて段階的に進めることが重要です。移行方式の選定やシステム構成の整理、運用設計までを一度に最適化しようとすると、判断が複雑化して検討が停滞し、想定外のコスト増やトラブルを招くおそれがあります。
まずは現状を整理し、目的に応じた移行方式を選択したうえで、段階的に移行と最適化を進めることが現実的なアプローチといえるでしょう。
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