〜Webサービスやシステムの安定稼働を支える仕組みと運用管理のポイント〜
AWSのロードバランサーは、Webサービスやシステムに寄せられるアクセスを複数のサーバーへ効率的に分散し、安定した稼働を支える仕組みです。適切に導入することで、突然のアクセス集中や障害発生時でもサービスを継続できるため、可用性やセキュリティを高めたい企業にとって不可欠な存在といえます。
しかし、AWSのロードバランサーには複数の種類があり、用途や料金体系も異なるため、選定に迷うケースも少なくありません。本記事では、AWSのロードバランサーの仕組みや4種類の特徴、メリット、料金体系、運用管理のポイントを詳しく解説します。

1. AWSのロードバランサーとは?
AWSでは、Elastic Load Balancing(以下、ELB)というロードバランサーサービスが提供されています。ELBは、ユーザーからのリクエストを複数のサーバーやコンテナへ効率的に振り分けることで、アプリケーションの安定稼働を実現するマネージドサービスです。
従来は専用のロードバランサー機器を導入して負荷分散を行う必要がありましたが、AWSではクラウド環境に最適化された形で提供されており、必要に応じて数分で構築・運用ができます。
ELBはトラフィックの分散に加えてサーバーの状態を自動で監視し、異常があるインスタンスを検知すると、そのインスタンスをルーティング対象から外し、リクエストを正常なインスタンスのみに振り分ける仕組みを備えています。これにより、障害時でもサービスを継続でき、可用性を大きく向上させることが可能です。
ロードバランサーの役割
一般的にロードバランサーとは、利用者からのアクセスを複数のサーバーへ自動的に分散し、システム全体の負荷を均等化する仕組みを指します。これにより、単一サーバーに負荷が集中して処理が遅延したり、障害で停止したりするリスクを回避可能です。
さらに、可用性の確保やスケーラビリティの向上、セキュリティ強化といった役割も担い、現代のWebシステムには欠かせない存在といえます。
2. AWSのロードバランサー4種類と用途
ELBは4種類提供されており、それぞれが異なるレイヤーで動作します。以下の表に、4種類の特徴をまとめました。
項目 | Application Load Balancer(ALB) | Network Load Balancer(NLB) | Gateway Load Balancer(GWLB) | Classic Load Balancer(CLB) |
主な用途 | Webアプリケーション、マイクロサービス、コンテナ環境(ECS/EKS) | 高負荷処理、ゲームサーバー、IoT、大規模TCP/UDP通信 | サードパーティのセキュリティアプライアンスとの連携 | レガシーアプリの互換性確保※新規利用は非推奨(旧型) |
通信レイヤー | L7 | L4 | L3 | L4/L7 |
対応プロトコル | HTTP、HTTPS、gRPC | TCP、UDP、TLS | Geneve | HTTP、 HTTPS、TCP、SSL |
Application Load Balancer(ALB)
アプリケーション層(L7)で動作し、HTTP/HTTPSリクエストを中身に応じて振り分ける点が特徴です。たとえば、URLパスやホスト名ごとに処理先を変えたり、マイクロサービスやコンテナ環境でのルーティングを柔軟に制御したりできます。
WebアプリケーションやAPIの基盤に最適であり、AWS WAFとの連携によってセキュリティ強化も可能です。
Network Load Balancer(NLB)
トランスポート層(L4)で動作し、TCPやUDPを対象に、超低レイテンシかつ高スループットの処理を実現します。数百万リクエスト/秒の処理に対応できる性能を持ち、金融システムやゲームサーバー、IoTのようにリアルタイム性や大量通信が求められるケースに適しています。
また、固定IPアドレスやElastic IPの割り当ても可能で、ネットワーク設計をシンプルにできる点も特徴です。
Gateway Load Balancer(GWLB)
ネットワーク層(L3)で動作し、サードパーティのセキュリティアプライアンスをVPCに透過的に組み込めます。具体的には、ファイアウォールやIDS/IPSを中継する仕組みを提供し、Geneveプロトコル(仮想ネットワーク間でパケットをカプセル化して転送する仕組み)を用いてパケットを転送します。
セキュリティ監視や不正アクセス対策を強化したい企業に有効です。
Classic Load Balancer(CLB)
AWS初期から提供されている旧世代のロードバランサーであり、L4/L7の両方に対応しています。ただし機能は限定的で、現在はALBやNLBへの移行が推奨されています。既存のレガシーシステムとの互換性を維持するために利用されるケースが多く、新規導入には向きません。
3. AWSロードバランサーのメリット
可用性の向上

AWSのロードバランサーは、複数のインスタンスにリクエストを自動で分散し、障害を検知した際はそのインスタンスへのルーティングを自動的に停止して、正常なインスタンスのみに振り分けます。
さらに、複数のアベイラビリティゾーン(地理的に切り離されたデータセンター群)にまたがって分散できるため、データセンター単位の障害にも強く、Webサービスを途切れることなく継続できます。単なる負荷分散にとどまらず、地理的に分散した環境で高い可用性を確保できる点が大きな強みです。
スケーラビリティの向上
AutoScaling機能との組み合わせにより、アクセス増加時には自動的にインスタンスを追加し、閑散期には削除できます。必要なときのみリソースを拡張し、コストの無駄を抑えつつ柔軟な拡張性を実現可能です。
また、1つのロードバランサーで複数のアプリケーションをルーティングできるため、マイクロサービスやマルチアプリ構成にも対応できます。
セキュリティの強化
ロードバランサーはVPC内部に配置され、セキュリティグループによって許可したトラフィックのみを通過させることができます。さらに、TLS/SSL証明書の一元管理やALBとAWS WAFの組み合わせにより、暗号化通信の強化に加え、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)、DDoS攻撃など代表的なサイバー攻撃への対策も効率的に実装可能です。
これにより、アプリケーション開発者がセキュリティの複雑な設定に追われることなく、安全性の高い運用を実現できます。
AWSサービスとの統合
ロードバランサーはAmazon CloudWatch(モニタリングサービス)によるモニタリングに対応しており、トラフィック量やレスポンスの状態をリアルタイムで可視化できます。これにより、異常の早期発見や性能チューニングが容易となります。
また、ECS(コンテナ管理サービス)、EKS(Kubernetesマネージドサービス)、Lambda(サーバーレス実行環境)といった各種AWSサービスと密接に統合されているため、クラウドネイティブなアプリケーション基盤を効率的に構築できることもメリットです。
インフラ運用の自動化やセキュリティ強化を含め、AWSのサービス群と統合的に最適化できる点は、AWSロードバランサーの大きな特徴といえるでしょう。

4. AWSロードバランサーの料金体系
AWSのロードバランサーは、タイプに応じた稼働時間と処理量に基づく従量課金制を採用しています。そのため、選定時には機能面だけではなく、コスト構成と追加料金要素を理解することが重要です。
Application Load Balancer(ALB)
稼働時間に対する料金+Load Balancer Capacity Unit(LCU)に基づく料金です。LCUは新規接続数、アクティブ接続数、処理バイト数、ルール評価数のいずれか最大値で計算されます。
Network Load Balancer(NLB)
稼働時間に対する料金+Network Load Balancer Capacity Unit(NLCU)に基づく料金です。NLCUは新規接続数、アクティブ接続数、処理バイト数の最大値により決まります。
Gateway Load Balancer(GWLB)
稼働時間に対する料金+Gateway Load Balancer Capacity Unit(GLCU)に基づく料金+Gateway Load Balancer Endpoint(GWLBE)に基づく料金です。GLCUは新規接続数、アクティブ接続数、処理バイト数の最大値により決まります。また、GWLBEは時間単位の利用料金および処理データ量に応じて決まります。
Classic Load Balancer(CLB)
稼働時間に対する料金+処理したデータ量に応じた料金です。
データ転送料金
上記に加え、標準のAWSデータ転送料金が発生します。
パブリックIPv4アドレスの料金
ロードバランサーで使用するパブリックIPv4アドレスには、VPCのIPv4アドレス利用に基づく別料金が発生します。
料金について詳しくは以下のページをご覧ください。
料金 – Elastic Load Balancing | AWS
5. AWSロードバランサーの運用管理のポイント
AWSのロードバランサーはマネージドサービスとして提供されるため、構築や基本運用の負担は軽減されます。しかし、利用者側でも次のポイントを押さえておきましょう。
モニタリングによる異常検知
CloudWatchメトリクスを活用することで、リクエスト数やレスポンスタイム、ターゲットのヘルスチェック結果などをリアルタイムで監視できます。これにより、異常なレスポンス遅延やトラフィック急増を早期に検知し、迅速な対応につなげられます。アラームを設定すれば、障害発生時に自動通知を受け取ることも可能です。
アクセスログの管理と分析
ALBやNLBではアクセスログをAmazon S3(オブジェクトストレージサービス)に出力できるため、ユーザーリクエストの傾向やエラー発生状況を分析できます。
ログをAmazon Athena(サーバーレスの対話型クエリサービス)やCloudWatch Logs Insights(ログデータを高速に検索・分析できるサービス)で解析することで、不審なアクセスや利用パターンを可視化し、セキュリティ対策やキャパシティ計画に役立てられるでしょう。継続的なログ分析は、運用改善だけではなくコンプライアンス対応にも有効です。
コストの最適化
ロードバランサーの料金は利用時間や処理データ量に応じて発生するため、不要なロードバランサーを放置すれば無駄なコストとなります。環境ごとに利用状況を定期的に確認し、不要なリソースを削除することが重要です
ページリンク:AWS 請求代行サービス
ロードバランサーだけではなく、AWS全体の構築や構築後に注意すべきポイントも理解しておきましょう。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
AWS構築ガイド|初心者にもわかる基礎知識と手順、構築後の注意点まで解説
まとめ
AWSのロードバランサーは、可用性やスケーラビリティを高め、システムの安定稼働を実現するうえで欠かせないサービスです。ALB/NLB/GWLB/CLBの特徴や料金体系を理解し、自社のユースケースに合った選定を行いましょう。
ただし、実際の運用では監視やログ分析、コスト管理など多くのタスクが伴い、担当者の負荷が大きくなりやすいため注意が必要です。ハートビーツは、24時間365日の監視や障害対応を担うMSPサービスに加え、セキュリティ導入・運用代行、AWS請求代行サービスを提供しています。
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