こんにちは。事業基盤グループ 人材開発チームの佐野です。
人材育成の観点で、テレワークという環境下の中、みんなが最大限パフォーマンスを出すために何ができるのかは大きな課題の一つでした。そこで本屋でいろいろな本を物色していた中、「遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み」という本で次の3つのフレーズ、「テレワークにおけるパフォーマンス低下の問題」、「社員の自律やモチベーションの低下に悩む管理職は多い」、および「仕事における面白さをどのように醸成するのか」が目に入り、私の感じている課題感にマッチしていたので読んでみました。
参考文献 - 遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み - 神谷 俊 著 - 発行年月:2020年04月 - 頁数:208 - https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/2021/9784532324001/
著者の神谷さんは、リモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立し、数多くの企業のテレワーク移行支援を手掛け、継続的にオンライン環境における組織マネジメントの知見を蓄積されています。
※注意。本ブログでは参考文献を要約としてまとめたものではなく、本を読んだ上で我々にとって必要と感じた部分を引用する形としています。参考文献について興味を持たれた方はぜひ直接原著を読んでみてください。
弊社におけるこれまでのリモートワークの取り組みと課題
新型コロナウィルスの大流行を契機として、弊社では2020年にリモートワーク体制に完全移行しました。オフィス勤務前提の業務体系を一気にリモートワーク体制に変えることになったわけですから、他社同様に弊社としても挑戦的な取り組みとなりました(私が⼊社する少し前に完全移⾏となりました)。
それまでの一緒に対面しながら同僚達と仕事をする業務スタイルから、インターネットを介し協調して業務を進める業務スタイルへ突然変更になったので、最初はとまどった人が多かったようです。しかし現在はリモートワークが完全に定着して、リモートワークならではの特性を生かした取り組みも進んでおります。特に、これまで東京にしか拠点がなくて難しかった地方採用を積極的に行うようになり、現在は北海道、東北、関西、九州、沖縄等、全国的な採用が進み、地域の多様化につながったことは完全リモートワーク化の副産物として結果的に大成功でした。
リモートワーク体制では、一般的にメンバー間の交流が希薄化されがちです。この問題については例えば次のようなことが社内で広く実施されています。
・対面で実施するワークショップや会議(地方勤務者は東京に出張して実施する) ・オンラインで実施する月例朝会、ランチ会、もしくは打ち上げ等 ・各地域毎に行われるリアル会食(大阪飲み会、福岡飲み会等)
このように、今ではリモートワーク体制が定着していますが、一方でリモートワーク環境を継続するにあたり、みんながもっとパフォーマンスを出せるようにしていくという観点では、リモートワークならではの効果的な働き方がもっとできるのではないか、もしくはリモートワーク下でのマネジメントをもっと体系化できるのではないか等、まだまだやれることがあるのではないかと考えています。
今回そういう視点を持ちながら参考文献を読んでみました。
テレワークと「型」
参考文献には、テレワークのようにメンバーが分散した状況で協働を進めるためには、個々の社員が達成すべき成果目標や役割などの業務構造やルール、チーム内での会議や面談の頻度などの活動をパターン化することが不可欠と書かれています。本書ではこのパターンのことを「型」と定義しています。
「型」は社員がテレワーク環境で自律的に働きやすいように構築されます。しかし、自律を促すための「型」が反対に社員の自律的な思考や活動を縛り、強制的に方向づけるようなコントロールを生み出した結果、「テレワークになり仕事はしやすくなったけど、自由度は下がった」などと感じるようになります。
そして部下が「型」によってコントロールされているにもかかわらず、上司が「自律を促している」「チームは自律が進んでいる」と解釈して、誤ったマネジメントが継続されるケースが見られるようです。
このように、単に「型」を作り、それを適用することだけでは不十分なようです。
「型」の緩和をしても成果が出ないことがある
テレワークが長期化するなかで「型」が過剰に生まれていることに気づき、徐々に「型」を緩和した事例が紹介されていました。しかしこの事例では「型」を緩和したにも関わらず自律や生産性が思うように高まっていませんでした。
成果目標をすり合わせた上で仕事の進め方は部下に任せていく方法で「型」の緩和をした結果、自律的に動くどころか、個々の社員の気が緩んでしまい、むしろ最低限の成果にとどまる結果となったようです。
そこで、社員の成果が最低限に留まるなら最低限の基準を高めればよいのではないかと目標水準を引き上げる方向に設定すると、今度は「プレッシャーを感じた」「労働時間の顕著な増加が見られた」「部下からの問い合わせや相談が増えてかなり負担が増えた」という結果となり、結果的に自律は促されなかったようです。
このように、「型」を減らす代わりに「成果目標」をすり合わせて「目標水準」を引き上げる形も、みんなが最大限パフォーマンスを出す結果にはならないようです。
「真面目」について
ところで、オフィス環境を前提とした職場環境では、上司や同僚が見えている環境の中で「真面目」に働くことが有効に機能していたとのことです。オフィス環境においては、相手の状況に合わせてタイミングよくアドバイスや補完をしあうという関係性が構築できていたことや、「真面目」に頑張っていれば上司から気遣い・励まし、褒め・承認を得られることでやる気にもつながっていました。
しかしテレワーク下では、周囲の状況が見えないため、結果注視のマネジメントに切り替えるスタイルが増えています。その結果、プロセスや努力よりも結果を注視されるようになりました。
このように、テレワーク環境下では「真面目」な努力を求めて部下を動機づけたり「型」を精致に運用するだけでは成果を高めることは難しいかもしれず、より高次の自律レベルを目指しながらチームを整えていくことが求められるとのことです。
楽しさに刺激を受けた自律
別の事例では、成果目標をすり合わせた上で仕事の進め方は部下に任せていく方法であってもメンバーが生き生きと自律的に動いている様子が紹介されていました。
この事例では、成果目標も詳細に擦り合わせをし、上司との進捗を共有するための面談も週次で行われていました。しかしこの事例ではヒアリング対象から「コントロールされている」といったニュアンスの言葉は⼀切出てこず、むしろ高いレベルで自律的に仕事をしている様子が伝わってきていました。
ヒアリング対象は、成果目標で定められている内容以外に、独自に営業チームと連携を強めたりメール文面の改良を試みるなど、とくに規定されていない仕事を自ら見つけて進めていて、さらには関連する領域の勉強を自分なりに行っているという状況です。ヒアリング対象からは、「楽しい」「自分のため」「自分の進む道」というキーワードが発言されていました。自分を起点に仕事を組み立て、「楽しさ」に刺激を受けながら仕事を自律的に行っていることが読み取れます。
このように、各メンバーへの動機付け次第では、楽しくかつ高次の自律レベルで行動していく状況を作り出していくことが可能とのことです。
セルフマネジメントとセルフリーダーシップの違い
「社員が自律的に働くとはどういうことか」に対して、上記2つの事例の違いが「セルフマネジメント」と「セルフリーダーシップ」の違いにあるとのことでした。
・セルフマネジメント
「それぞれの部下が自分の仕事をプライドを持ってちゃんと進められるようになってほしい」という意図から、会社が提示した目標をひとりで達成できるようになることを促している。「やるべき」「しなければならない」という義務感や責任感を醸成するようなアプロ―チとなる。
・セルフリーダーシップ
「自分がその仕事にどんな意味を見出すのか、それが見えなければ自律なんてできない」という意図から、自分が「したい」「やろう」と思いながら取り組むことを「自律」としている。部下がどのような志向を持っていて、仕事をどのように位置付けているのか、何に興味や関心を抱いているのかなどを細かく把握することが求められるため、部下との対話が基本になる。
セルフマネジメントは、「タスクが来たら真面目にこなす」というような受け身にもなりがちな状況になり、一方、セルフリーダーシップは、本質的な目的や方向性について自ら考えながら動くので、高次の自律レベルが期待できかつ高いパフォーマンスを発揮できるとのことです。
5段階の自律レベル
自律について、下記のように5段階に整理して説明されていました。レベルが高ければ高くなるほど自律レベルも高くなります。詳細説明は省きますので詳しく知りたい方は参考文献を実際に読んでみてください。
LEVEL1: ルール・規則に従う LEVEL2: 責任感・プライドを感じる LEVEL3: 仕事の価値を理解する LEVEL4: 気持ちが動かされる LEVEL5: 楽しさ・面白さを感じる ※LEVEL1~3: セルフマネジメント ※LEVEL4~5: セルフリーダーシップ
LEVEL4~5がセルフリーダーシップのレベル感とのことなので、このレベルのメンバーを多く増せることが理想的です。
どうしたらセルフリーダーシップの自律レベルに到達できるか
参考文献の後半では、どうしたらセルフリーダーシップの自律レベルに到達できるかを、個人の視点と、管理者(上司)からの視点で記されています。
個人の視点は第3章にまとめられています。ここでは具体的なアクションを示しながら、仕事に「遊び」を呼び込むためのポイントが記載されています。
第3章: 自分に合わせて仕事をクラフトする [1]自分の仕事を整える [2]オーナーシープを高めるアクション [3]ジョブ・クラフティングの実践 [4]能力を発揮するためのチューンナップ [5]ネットワークの活用と構築 [6]仕事を面白くするための六つの実践ポイント
管理者(上司)からの視点は第4章にまとめられています。ここでは管理者の視点で自律を促すために、どのような支援をしていけばよいかについて提示されています。
第4章: 管理者は仕事を面白くできる [1] 「自律させる」ではなく「勝手に自律する」 [2] 部下を知ることから始める [3] 部下のタイプに合わせたマネジメントの検討 [4] 仕事に対する注力姿勢が低い部下への対応(線引き型・停滞型) [5] 現実的「制約」を持った部下へ対応するための三つの視点 [6] 頑張っているが、仕事を楽しめていない部下への対応(真面目型) [7] 自律レベルの高い部下への対応(自律型) [8] マネジメントは矛盾してよい
セルフリーダーシップでは、先ほど「部下がどのような志向を持っていて、仕事をどのように位置付けているのか、何に興味や関心を抱いているのかなどを細かく把握することが求められるため、部下との対話が基本になる」と記しました。第4章では様々な観点からどのように部下を知り、対話していけばよいかのヒントが山のように示されていました。
なお本項の「どうしたらセルフリーダーシップの自律レベルに到達できるか」について、本文からではなく目次からの引用に留めているのは、内容の密度が高くて該当箇所を引用しようとすると、ほぼほぼ全て引用となりそうだったためです。これは部下とのコミュニケーションから高次の自律レベルを導くためには、こまめにやらないといけないポイントが多数あるとも言えそうです。
気付きとまとめ
「テレワークという環境下の中、みんなが最大限パフォーマンスを出すために何ができるのか」という大きな課題の一つに対して、仕事をする上での意義を自分で見出し楽しさを感じる、セルフリーダーシップの自律レベルに到達することで部下(社員)が自律的に動けるようになるという考え方が大変参考になりました。
現時点ですでにこのレベルまで到達している社員もいれば、そうでない社員もいます。全社的な底上げを考えるうえで、参考文献にて管理者(上司)と部下との対話が重要であると書かれていることから、すでにセルフリーダーシップの自律レベルに到達している社員を中心に管理者(上司)の役割を担うことで全社的な自律レベルを上げていく必要があります。
そのような流れを人材育成プログラム作成などの手段で仕組み化できると、結果的に全社的に自律レベルが上がり、最大限のパフォーマンスが出せるようになると考えられます。もちろん我々人材育成部門メンバーも同様に「楽しさ」に刺激を受けながら仕事を自律的に行えてなければならないのは言うまでもありません。