こんにちは。事業基盤グループ 人材開発チームの佐野です。
これまで人材開発チームは新卒採用の新入社員向けにインフラエンジニアの育成を担っていました。その役割に加え、今後は社内全体の研修も強化していく役割を拡大することになりました。
それに伴いチーム内で人材育成関連の勉強をし直すこととし、せっかくですのでその勉強成果を数回に渡ってブログとして公開させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
※ 今回の参考文献
- 研修開発入門 「研修評価」の教科書 -「数字」と「物語」で経営・現場を変える
- 中原 淳 著/関根 雅泰 著/島村 公俊 著/林 博之 著
- 発行年月:2022年05月
- 頁数:236
- https://www.diamond.co.jp/book/9784478115534.html
これまで研修評価について漠然と感じていたこと
研修を行うと事後にアンケートが取られるのが一般的です。アンケート結果は研修内容が有用であったかを判断し、研修内容の改善につなげる目的で使われてきました。
しかし個人的な感覚として、本来我々が必要としているフィードバックがアンケート結果にあまり含まれていないことが多かったように思います。満足度の数値は高いが本当に意味がある研修であったのかどうか。このあたりのギャップが個人的にもやもやしていました。
研修評価と研修移転
ここで参考文献を読んでみると、次のようなことが書いてありました。
人材開発の効果を最大化するために、「研修評価」は、大きく質を転換しなければならない領域の一つである
海外では一般的な「研修移転」という考え方が人事教育部門に広まっていなかった。研修移転とは、研修で学んだことを現場で実践して成果につなげていくことである
これを踏まえると、社内で一般的に用いられてきた研修後のアンケートの内容は、研修で学んだことを現場で実践して成果につなげていけているか検証するための情報を集めるという観点が抜けており不十分だった気がします。何かしら研修評価の仕方の改善が必要そうです。
ジェームス・カークパトリックの「新4レベル評価モデル」
研修や教育プログラムの効果を評価するためのフレームワークとして、ジェームス・カークパトリックの「新4レベル評価モデル」が紹介されていました。研修プログラムを作る際にバックキャスト(ゴールから考える)としてレベル4から順にレベル1に向かって設計していくとのことです。
- レベル4: 成果
- レベル3: 行動
- レベル2: 学習
- レベル1: 反応
まず「レベル4:成果」の具体化をします。成果とは、例えば「市場でのシェアを何%くらい伸ばしたい」といった定量的な数字や、「従業員にこうなってほしい」といった定性的な状態も含まれます。
つぎに「レベル3:行動」の明確化を行います。こちらは現場からの情報収集を行って明確化していく必要があります。
続いて「レベル2:学習」にて受講者にどんな知識・スキル・態度を持ってほしいかを定義します。
最後に「レベル1:反応」にて関連度・有用度・自己効力感を考えます。
ここで注意すべきは、感情的反応である「満足度」は、本来関係があるとされていた次のレベル「学習」や「行動」に結びついていないという先行研究が多々あるという点です。よって研修直後のアンケートで満足度が高かったとしても、「満足度が高い研修を受ければ、受講者は現場での仕事に成功するか?」という問いには答えることができないとのことです。
一方、(現場実践での)関連度と有用度が高く、かつ自己効力感が高い、すなわち受講者が「私にも実践できる!(Can)」や「私はこれを実践する!(Will)」という気持ちになったなら、その研修内容は転移しやすくなることが明らかにされているそうです。
厳密な評価は難しい
研修に対して厳密すぎる評価を行うことは実際の現場では難しいようです。厳密に評価するためには科学的なアプローチが必要です。科学的なアプローチとは、例えば「研修を受けたグループ」と「研修を受けなかったグループ」を用意し、それぞれで経過観察をして効果を評価するというようなアプローチが必要となります。しかし実際のビジネスの現場ではこのようなアプローチを取ることは現実的ではありません。
混合評価
参考文献では、著者らによる混合評価と呼ばれる方法が提唱されています。
(1) 定量データと定性データを混合させる 研修評価のデータを定量・定性問わず混合させます。
定量的な評価とは、定量データで数値化されたデータです。数値は誰にとってもわかりやすいですが、研修評価においては全てを定量データで表現するのは容易ではないのと、厳密に数値化しようとすると先ほど記した科学的なアプローチが必要になります。
一方、定性的な評価とは、聞き取り、ヒアリング、インタビューなどといった手法で収集される、言葉で表現されたデータです。受講生の具体的な言葉や現場の生の声などを元に状況が目に浮かぶような物語モードで表します。
(2) 研修直後の測定と研修移転の測定を混合させる 研修直後のアンケート結果に加えて、研修移転を測定します。
研修直後だけでなく、研修実施から数か月後に、研修で学んだことをどの程度仕事に活かせているかを問います。
まとめ
これまで社内には様々な研修がありましたが、確かに満足度を軸としたアンケートが多く、満足度はいずれも高かったものの、本当に研修で学んだことが現場で実践され成果につながっていたかまで評価しきれていなかった気がします。研修が本当に実務に役に立つ内容だったかという観点では、確かに受講者の「関連度、有用度、自己効力感」の3つの反応はとても有効に感じました。
また、研修を設計する上で、成果から逆算して行動、学習、反応と向かっていくアプローチは研修内容を作り込む際にとても有用に感じました。